新年度のシラバス提出締切の前夜。自分の科目のシラバスを開き、去年の記述をそのままコピーしようとして、ふと手が止まります。学修目標の欄にはこう書いてあります — 「本疾患群の病態を理解し、臨床に応用できる」。その隣のフォルダには、先月作ったばかりの期末試験。50問のうち40問が、数値や名称をそのまま思い出させる問題です。目標は「応用」をうたい、試験は「暗記」を測っている。同じ科目のはずなのに、まるで別の科目の書類が混ざってしまったように見える——。
図: 同じ科目のはずの2枚の書類 — 目標は応用、試験は暗記
この違和感に名前を付け、点検の道具に変えるのが、講座最終モジュールのテーマ、構成的整合です。設計1から評価4まで積み上げてきた部品を、ここで一枚の表に組み上げます。
三つの要素は同じ方向を向いているか
構成的整合(constructive alignment)は、オーストラリアの教育心理学者John Biggsが提唱した概念で、アウトカム基盤型教育と逆向き設計(設計2)の実務的な到達点といえます。主張はシンプルです。
| 要素 | 問い | 本講座での対応 |
|---|---|---|
| 学修目標 | 学生に何ができるようになってほしいか | 設計2・設計3(設計編) |
| 教育方略 | そのために何をさせるか | 設計4・設計5(設計編) |
| 評価 | できるようになったかをどう確かめるか | 評価1〜評価4(評価編) |
この三つが同じ学修成果に向かって揃っているとき、科目は「整合している」といいます。「構成的」という言葉には、学生が自ら知識を構成する(教員が注ぎ込むのではない)という学習観が込められています。
図: 構成的整合 — 目標・方略・評価という3本の矢が同じ学修成果という的を向く
なぜ整合が決定的に重要なのか。評価1で見たとおり、学生は評価から逆算して学ぶからです。シラバスに何と書いてあっても、学生にとっての実質的なカリキュラムは「試験に出るもの」です。目標が「応用できる」で、試験が暗記の多肢選択問題なら、学生は合理的に暗記だけをします。学生が「試験に出るところだけ教えてください」と言うのは、学生の怠慢ではなく、不整合な設計への正直な反応なのです。逆にいえば、評価を目標に揃えるだけで、教員が説教をしなくても学生の学び方は変わります。
整合マトリクスで自科目を点検する
点検の道具は一枚の表だけです。手順は4つ。
- シラバスの学修目標を左端の列に1行ずつ書き出す
- 各目標の水準を判定する(ブルーム・タキソノミーの段階、またはミラーのピラミッドのKnows / Knows how / Shows how / Does)
- その目標のために実際に行っている教育方略と評価方法を、記憶ではなく実物(授業資料・試験問題・実習評価表)を見ながら埋める
- 行ごとに「水準が揃っているか」を判定し、×の行に印を付ける
図: 整合マトリクス — 行ごとに○×を付けて不整合を洗い出す
まずは空欄のワークシートです。印刷するか、そのまま書き写して使ってください。
| 学修目標 | 目標の水準 | 教育方略 | 評価方法 | 整合? |
|---|---|---|---|---|
| (目標1) | ||||
| (目標2) | ||||
| (目標3) | ||||
| (試験に出るが目標にない内容) | — |
最後の行に注目してください。マトリクスは目標側からだけでなく、評価側からも埋めます。試験問題を1問ずつ目標に紐づけていくと、どの目標にも対応しない問題——出題者の専門領域の細かい知識など——が必ず見つかります。これも立派な不整合です。
記入例として、K教授の循環器ユニットから2行を借りると、こうなります。
| 学修目標 | 目標の水準 | 教育方略 | 評価方法 | 整合? |
|---|---|---|---|---|
| 心不全の病態を血行動態から説明できる | Knows how | 講義+症例ディスカッション | 症例ベースの多肢選択問題 | ○ |
| 急性心不全の初期評価を計画できる | Knows how〜Shows how | 講義のみ | 薬剤名の想起問題 | ×(方略も評価も水準が下) |
×の行が見つかったら、直すのは目標・方略・評価のどれでも構いません。目標が高すぎるなら目標を現実に合わせて書き直すのも、正当な整合のとり方です。
ありがちな不整合3パターンと処方箋
多くの科目のマトリクスで繰り返し現れるのは、次の3つです。
| 不整合パターン | 典型例 | 処方箋 |
|---|---|---|
| 目標は応用、評価は暗記 | 「診断・治療方針を立てられる」が目標なのに、試験は用語の想起問題ばかり | 症例ベースの多肢選択問題(評価2)や口頭試問に置き換え、水準を目標に揃える |
| 目標にない内容が試験に出る | 出題者の研究テーマに関する細かい知識が毎年数問混ざる | 試験ブループリントを作り、全問を目標に紐づける。本当に重要なら目標に昇格させ、そうでなければ出題をやめる |
| 実習の目標を筆記で測る | 「身体診察を実施できる」を筆記試験の成績で代用 | Shows how / Doesの水準はOSCE・mini-CEX・ルーブリック付き観察評価(評価3)で測る |
3つに共通するのは、目標・方略・評価の水準のずれです。内容が一致していても、測っている高さが違えば不整合です。判定に迷ったら「この評価に合格した学生は、この目標を達成したと言い切れるか」と自問してください。
この講座自体を解剖する
ここで種明かしをします。実は、いまあなたが受講しているこの講座そのものが、構成的整合の実例として設計されています。ファカルティ・ディベロップメントの講座が自らの教えを実践していなければ、説得力がないからです。
- 学修目標: 講座全体のコースアウトカムO1〜O6が設計ページ(/meta)に公開されており、各モジュールの冒頭に掲げたモジュール・アウトカムはすべてO1〜O6のいずれかに紐づいています。このモジュールマップは、講座自身の整合マトリクスにほかなりません。
- 教育方略: 各モジュールは記事+動画の二重の入力(二重符号化)で構成され、動画末の想起チェックは想起練習を組み込んだ形成的評価です。合否には関わらず、学びを助けるためだけにあります(評価1)。
- 評価: 修了試験は、どのアウトカムから何問出題するかを事前に公開するブループリント公開型の総括的評価です。試験ブループリント(評価2)を受講者側から見える形で運用しています。
つまり、設計ページを開いてこの3点を確かめれば、「目標が公開され、方略が目標に対応し、評価がブループリントで目標に紐づく」という構成的整合の全部品を、実物で観察できます。あなたの科目のシラバスを書き直すとき、そのままテンプレートとして流用してください。
K教授の再設計ノート
再設計から1年。K教授は完成した整合マトリクスを前に、2枚の資料を並べています。1枚目は今年の成績分布。平均は85点から78点に下がりましたが、あの不自然に高得点側に張り付いた分布(評価4)は消え、識別指数の高い症例ベース問題が上位と下位をきちんと分けています。「点が下がったのに、手応えは上がった」——最初は逆説に思えたこの感覚を、いまは説明できます。以前の85点は、目標にない暗記を測った数字だったのです。
2枚目は病棟実習の指導医コメントです。「循環器を終えた学生は、心不全患者の前で最初の一歩が出る」。mini-CEXの記録でも、初期評価の項目が前年より明らかに改善していました。講義を症例ディスカッションに組み替え(設計4)、One-Minute Preceptorで病棟の問いかけを変え(設計5)、試験をブループリントで目標に縛り直した(評価2)——個々の変更はどれも小さなものでしたが、同じ方向に揃えたことで、筆記の成績分布と実習パフォーマンスの両方が動きました。
マトリクスの最終行、1年前に×だった「急性心不全の初期評価を計画できる」の整合欄に、K教授は○を書き入れました。ただし余白にひとこと添えて。「来年は、外来での評価をどう入れるか」。点検は一度で終わらない——それがこの1年でいちばんの学びでした。
まとめ
構成的整合とは、学修目標・教育方略・評価が同じ学修成果に向かって揃っている状態のことでした。点検に必要なのは一枚の整合マトリクスだけです。目標を書き出し、水準を判定し、実物の資料を見ながら方略と評価を埋め、評価側からも逆に紐づける。そこで見つかる不整合の多くは、「応用が目標なのに暗記を測る」「目標にない内容が試験に出る」「実習の目標を筆記で測る」の3パターンのどれかです。そして大事なのは、点検を完璧に仕上げることではなく、不整合を1つ見つけて1つ直すことから始めることでした。K教授の1年が示すように、小さな修正でも方向が揃えば、成績分布と現場のパフォーマンスの両方が変わります。
これで設計編・能動学修編・評価編のすべてのモジュールが終わりました。最後の仕上げは修了試験です。この試験はブループリント公開型 — どのコースアウトカムから何問出るかは設計ページ(/meta)に載っています。まさに本モジュールで学んだとおりの設計ですから、どうぞブループリントを見てから臨んでください。それが正しい受け方です。
さらに学ぶために
- Biggs J, Tang C. Teaching for Quality Learning at University. Open University Press, 2011(第4版) — 構成的整合の原典。第1章だけでも、本モジュールの理論的背景が一望できます。
- Wiggins G, McTighe J. Understanding by Design. ASCD, 2005(第2版) — 逆向き設計の定番書。整合マトリクスを科目全体の設計図に拡張したいときの次の一冊です。
- Harden RM. AMEE Guide No.14: Outcome-based education. Medical Teacher, 1999 — アウトカム基盤型教育の医学教育における出発点。O1〜O6のような講座アウトカムの考え方の源流です。
- van der Vleuten CPM. The assessment of professional competence: developments, research and practical implications. Advances in Health Sciences Education, 1996 — 評価のユーティリティ概念の原典。評価側から整合を考える視点を与えてくれます。
- 医学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)— 自科目のアウトカムを全国標準と照合する際の必携資料です。